田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

日垣隆 著『脳梗塞日誌』より。新型コロナウイルスよりも過労による脳梗塞の方が怖い。

 好きなことを続けることは問題にはならないのであり、嫌いで必要がないものもまた問題にならない。好きとは限らないもので、必要不可欠なものをどれだけ継続し得ているか。どれだけ多くの「たとえ嫌いでも私にとって、または我々にとって絶対に必要なこと」を最後まで遂行し得たか、そのリアルな体験知こそが、人生に予定もなく(笑)、想像を絶する複雑怪奇な病に笑顔で毎日挑み続け、ゴールまで屈しない魂を持ち続け、約100ものコントロール権を奪い返すことを実現しうる。――その道しか私たちに偉大な可能性を保証してくれる方法はない。
(日垣隆『脳梗塞日誌』大和書房、2016)

 

 こんばんは。臨時休校になりました。突然のクラス解体(涙)とか、一生に一度の卒業式が(涙)とか、いろいろと言われていますが、私としては、毎年「いつ倒れてもおかしくない」状態になる3月を回避することができたので、正直ホッとしています。普段の忙しさも異常ですが、年度末の忙しさは異常のさらに上をいきます。大好きだった職場の先輩が脳梗塞で倒れたのも、ちょうど今くらいの時期でした。

 脳梗塞が発症したらカッコナミダではすまされません。超人ともいえるあの日垣隆さんだって、Twitter のプロフィール欄に「脳梗塞に負けつつある」(2020/2/28 現在)と書いています。想像を絶する複雑怪奇な脳梗塞(脳卒中)。新型コロナウイルスの感染予防も大事ですが、脳梗塞を誘発してしまうような教員の異常な働き方についても、その予防を首相の口から強く要請してほしいものです。その道しか私たち教員に健康で文化的な最低限度の生活を保証してくれる方法はありませんから。

 

 

 日垣さんの本はかれこれ50冊近く読んでいるような気がします。いちばんはまっていた時期には、有料のメルマガ(現在は無料らしい)もとっていました。本を購入したときに会員特典として謹呈していただいた北朝鮮紙幣は、今でも毎年のようにクラスの子どもたちの「すげ~!」という声を引き出すのに役立っています。

 

 すげ~!

 

f:id:CountryTeacher:20200228213352j:plain

北朝鮮紙幣、日垣隆さんより

 

 子どもたちが「すげ~!」と思うのと同じように、私は、日垣さんの生き方が「すげ~!」と思っています。ギャンブラーであり、作家であり、トレーダーであり、ジャーナリストであり、パパであり、そして弟を「学校事故」で亡くしている3兄弟の兄でもあります。だから『学校がアホらしいキミへ』や『信州教育解体新書』など、学校についての批判的かつ建設的な本も非常に示唆に富みます。

 

 舌鋒の鋭さが、よい。

 

 まったく興味がないなら別だが、五輪開催の7年も前の小学校低学年のころから、地元では「国際交流」などと言って準備を進めてきたのである。それもどうかと思うが(笑)、そこまでさせておいて、肝心のオリンピック期間中に「40人中39人」が「ごくありふれた受験前の1日」を強いられるのは、なぜか。
 理由は簡単だ。
 バカだからである。

 

『学校がアホらしいキミへ』からの引用です。地元というのは日垣さんの故郷である長野県のことです。長野市の中学3年生で、1998年の長野オリンピックの競技を実際に観に行った生徒は、一クラス平均たった「1人」だったという話。40人中39人が、100年に一度あるかないかの地元開催のオリンピックよりも「ごくありふれた受験前の1日」を強いられるのは、なぜか。40人中40人が、100年に一度あるかないかの臨時休校期間中に「ごくありふれた計算プリントの山」を強いられるのは、なぜか。理由は簡単だ。言わないけど。子どもも保護者も教員も《バカ色に染まるな。自分で考えてみろ。それが当面最大の課題》です。

 

 この三年間で、研究授業の準備中に命を落とした教諭が、長野県下で僕が直接に取材したものだけで二件ある。尋常ではない。

 

 これは『信州教育解体新書』からの引用です。

 

 今日は朝早くから学校の印刷機がフル回転していました。おそらくは昨夜もそうです。印刷室の机上には「ごくありふれ計算プリントの山」がいっぱい。必要でしょうか。計算プリントがほしければネット上にフリーのものがいくらでもあるのに、睡眠時間を削ってまでして教員が準備することなのでしょうか。いろいろな意味で、尋常ではありません。

 

 問題は、教員の自宅にどっさりと積まれた教育関係の本の多さだ。いや、プロなのだから、読んじゃあいけないといっているのでは当然ない。僕が奇異に感じたのは、教育関係の本の多さに比べて、それ以外の本があまりにも少ないという、その崩れたバランス感覚についてだった。

 

 これも『信州教育解体新書』からの引用です。日垣隆さん、やっぱり大好きだなぁ。完全に同意です。

 そんな日垣さんが、2015年に脳梗塞で倒れてしまいます。場所はグアム最大のホテルで、ゴルフに出かける直前だったとのこと。日垣さんの場合は過労ではなく神様の嫉妬が原因かもしれません。『脳梗塞日誌』には、倒れてからその後の「涙と笑いとリハビリの100日間」が描かれており、冒頭の引用にはリハビリに励む日垣隆さんの強い意志とメッセージが表れています。

 

 約100ものコントロール権。

 

 水を飲むとか、入浴するとか、服を着替えるとか、歩くとか、そして書くとか。日垣隆さんは「要介護3」と認定されながらも、リハビリを真剣に続けることで「いくつものコントロール権」を奪い返し、命ともいうべき「執筆」を続けています。解説を書いている理学療法士の福田俊樹さんは、患者である日垣隆さんを「前代未聞」と表現しています。もちろん200%プラスの意味です。

 

 前代未聞。

 

 2016年に『脳梗塞日誌』が出版されてから、もうすぐ4年が経ちます。《脳梗塞(脳卒中)ほど、闘い甲斐のある病はほかにありません》と書いていた日垣さんが「脳梗塞に負けつつある」と Twitter のプロフィールに上げているのを見ると、切なくなります。負けつつあるところからの前代未聞の復活劇を、昔からのファンとしては勝手に期待しています。

 

 脳梗塞日誌 Ⅱ を読みたい。

 

 おやすみなさい。

 

 

信州教育解体新書

信州教育解体新書

  • 作者:日垣 隆
  • 信濃毎日新聞社出版局
Amazon