田舎教師ときどき都会教師

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出口治明、駒崎弘樹 著『世界一子どもを育てやすい国にしよう』より。世界一教員が働きやすい国にしよう。

出口 「正規・非正規」「男性・女性」、ダブルの格差があるんですね。
駒崎 そうなんです。非正規で女性となると、どんなに働いても貧困になります。これが諸外国との違いです。諸外国では貧困といった場合、失業問題をなんとかしなきゃ、となります。でも日本は、OECD34ヶ国の中で、ひとり親が最も働いている国です。それなのに貧困。賃金が低いという特殊な問題があるので、賃金体系に横たわる差別を解消していくことが、まず必要ですね。
(出口治明、駒崎弘樹『世界一子どもを育てやすい国にしよう』ウェッジ、2016)

 

 こんばんは。上記に書かれているような状況を放置したまま選択的夫婦別氏制度(いわゆる夫婦別姓)を採択すると、バージョンアップが必要とされる日本の家族制度をマイナスの方向に強化することになってしまうおそれがある。先日、NPOで働く知り合いからそんな話を聞きました。

 

 なるほど。

 

 別姓でもOKなら結婚しよう。同性でもOKなら結婚しよう。どちらも法制化すればよいと思うものの、そこだけに目がいってしまうと、家族を基本単位とする社会保障制度や税制から疎外されているひとり親はますます苦しむことになります。もちろんそのお子さんも。

 

 あちらを立てればこちらが立たず。

 

 夫婦別姓のようなトピックが職場で話題になることはほとんどありません。やはり「世界一教員が働きやすい国にしよう」という為政者の知恵と熱意が待たれます。働き方改革が進めば、外で学ぶ機会が増えるからです。とはいえ、夫婦別姓に「+α」が求められるのと同じように、世界一教員が働きやすい国にも「+α」が求められます。それは、

 

 世界一子どもを育てやすい国にすること。

 

 

 

 出口治明さんと駒崎弘樹さんの対談を収めた『世界一子どもを育てやすい国にしよう』を再読しました。対談当時、出口さんは68歳、駒崎さんは36歳。世代でいえば、団塊と団塊ジュニアのダイアローグということになります。それぞれの世代のトップランナーが「ひと世代で世の中は変わる。子どもの問題は必ず解決できる」って、表紙にそう掲げているのだから、読まずにはいられません。以下は目次です。

 

 はじめに   社会が根底から変わらない限り少子化は止まらない
 第1章    ヒトが生きてきた歴史に学ぼう
 第2章    社会の仕掛け、仕組みを変えよう
 第3章    働き方を変えていこう
 第4章    教育こそが人間形成につながる
 第5章    年齢フリーのチャイルドファースト社会へ
 おわりに   怒りの声を上げよう、叫びを届けよう

 

 それぞれのタイトルを読むと「教育書」に思えてきます。怒りの声と叫びを Twitter の「#教師のバトン」に書き込んでいる学校関係者のみなさん、ぜひ読んでみてください。

 第1章は出口さんの得意とする「タテヨコ」の「タテ」の話。第2章は「ヨコ」の話です。夫婦別姓を例にすれば「物事を判断するときに、タテヨコ、つまり、昔(歴史)はどうだったかと、世界はどうかということをまず見る。タテで見れば、日本の伝統は平安時代を見れば明らかなように夫婦別姓。ヨコに見れば、法律婚で夫婦同一の姓とすることを強制している先進国は日本のみ。導入しない理由がなく、どうして夫婦別姓法案を通すことが簡単にできないのかとても不思議」(Wikipedia「出口治明」より)となります。

 このタテヨコの見方・考え方を「世界一子どもを育てやすい国にしよう」に当てはめるとどうなるのか。第2章「社会の仕掛け、仕組みを変えよう」に「ヨコ」の例として紹介されているフランスの「シラク3原則」が参考になります。

 

出口 少子化について、いつも僕が話題に挙げるのはフランスの「シラク3原則」です。

 

 シラク3原則を簡単にまとめると、以下。これらを全て法制化することによって、フランスは「世界一子どもを育てやすい国」の代替指標(先進国)である「出生率」を回復させます。学校に置き換えれば「隣のクラスがステキなことをやっているのであれば、真似すればいい」となるでしょうか。

 

 第1原則 男性の意見を聞く必要はない。女性が産みたいときに産めばいい。
 第2原則 赤ちゃんを必ず預けられる場所を用意する。
 第3原則 男女ともに育児休業後に元の人事評価のランクで職場に戻れる。

 

本人が産みたければ、18歳で産んでもいい。すべて女性が決めればいいのです。
 ただ、18歳ではお金がありません。女性が産みたい時期と、女性の経済力は必ずしも一致しないので、その差は税金で埋める。女性が何人子どもを産んでも、そのことで決して貧しくなることはないと保障したのです。産みたくない人は産まなくていい。でも、産みたいと思ったときは「社会がとことんサポートするので、安心して産んでください」という仕組みをつくったのです。

 

 社会がとことんサポートしてくれるなら、若くても安心、ひとり親でも安心、産んだ後も安心というわけです。もちろん夫婦別姓にも同性婚にもシラク3原則は適応されます。

 婚姻形態も日本と随分と違っていて、例えば同じ第2章に載っている「女性の平均初婚年齢」と「第1子出生時の平均年齢」を見てみると、職業柄「これらの数字を見て思ったことや考えたことを隣の友達と話し合ってみましょう」なんて言いたくなります。

 

女性の平均初婚年齢
 日本 29.3(2013)
 ドイツ 30.2(2011)
 フランス 30.8(2011)
 スウェーデン 33.0(2011)
  

第1子出生時の平均年齢
 日本 30.4(2013)
 ドイツ 29.0(2011)
 フランス 28.6(2006)
 スウェーデン 29.0(2011)

 

 わかりやすいくらいに違います。日本は「結婚 → 出産」がマジョリティー。ドイツやフランス、スウェーデンは「出産 → 結婚」がマジョリティーです。で、各国の出生率がどうなっているのかというと、以下。

 

 日本 1.36(2020)
 ドイツ 1.6(2020)
 フランス 1.84(2020)
 スウェーデン 1.84(2020)

 

 出生率というものさしをあてれば、これらの「ファクト」から日本の婚姻形態や家族制度に紐付く税制等に改善の余地があることは明らかです。しかし「ファクト」があっても「ロジック」を機能させられないというのが日本の残念なところ。目下の重大事である「コロナ対策」も然りで、2020年の人口当たりの死亡率で比べると、日本は台湾の91倍、中国の9倍、韓国の2倍とちょっとなっており、東アジアにおけるコロナ対策の完全な負け組となっています。

 

 教育も然り。    

 

 フィンランドやオランダは、日本よりも授業時数が少ないのに学力や幸福度が高いという「ファクト」が出ています。ロジカルに考えれば日本も「量より質」路線に舵を切るべきなのに、なぜか「量も質も」路線をひた走っていて、結果として「教員採用試験の倍率は過去最低」&「精神疾患を理由に退職した教員は過去最多」という緊急事態に陥ることに。標準時数を減らせばいいだけなのに、アホなのでしょうか。

 

駒崎 フローレンスでは、1日の残業時間が平均15分です。それは「働き方革命」と称し、さまざまな改革を行ったから。

 

 第3章の「働き方を変えていこう」より。フローレンスというのは、駒崎さん率いる社会問題解決集団(認定NPO法人)のことです。フローレンスでは、「訪問型病児保育」「障害児保育」「小規模保育」など、常識や固定概念にとらわれない新たな価値を創造しているとのこと。そこに「~保育」だけでなく「~教育」も加えてほしい。第4章と第5章のタイトルにあるように、教育こそが人間形成につながり、例えばシチズンシップ教育を受けたような子どもたちが、やがては年齢フリーのチャイルドファースト社会を準備することになるからです。

 

www.countryteacher.tokyo

 

 昨日、休日出勤したら、ママ先生がお子さん連れで仕事をしていました。20年近く前から変わっていない光景です。世界一子どもを育てやすい国にするために、そして世界一教員が働きやすい国にするために、

 

 怒りの声を上げよう。

 

 叫びを届けよう。

 

 

社会をちょっと変えてみた――ふつうの人が政治を動かした七つの物語