だから僕は。
何の保証もないことを、言おうと思った。
「きっとここは」
真っ白い世界に、最初の一行目を書き込む。
何を書いてもいい世界で、僕は。
何を書くかを、自分で決めた。
「まだ誰も知らない、新しい世界なんです」
(野﨑まど『HELLO WORLD』集英社文庫、2019)
おはようございます。昔、ディケンズの『大いなる遺産』(アルフォンソ・キュアロン監督)を映画館で観て、「何だこれは?」と、小説とのギャップに大いなる失望を覚えてからというもの、小説を読んでから映画を観るという順番ではなく、映画を観てから小説を読むという順番を心がけるようになりました。スーパーマンが地球をグルッと一周した後に地上に降り立つのと同じように、映画でザッと全体像をつかんだ後に、小説でディテールを味わう。野﨑まどさんの小説『HELLO WORLD』を読み終えて、改めてこの順番だなって思いました。映画、また観たくなったなぁ。
一行瑠璃(イチギョウルリ)。
小説&映画『HELLO WORLD』のヒロインの名前です。ヒーローは堅書直実(カタガキナオミ)。冒頭の引用は小説の最後の部分ですが、《真っ白い世界に、最初の一行目を書き込む》という一文に二人の名前が「回収」されていて、ホント、うまいなぁと思いました。こういうのは、映画を観ただけではなかなか味わえない悦びです。野﨑さん、ありがとう。『HELLO WORLD』を観たり読んだりするきっかけをつくってくれた髭ダンも、ありがとう。
ちなみに堅書直実と一行瑠璃は同じ高校のクラスメイトで、二人とも大の本好きです。所属はもちろん、図書委員会。男女関係に限らず、書物がとりもつ縁って素敵ですよね。そんなわけで、読書の秋。
その1 旅にまつわるお勧めの本
その2 人にまつわるお勧めの本
その1 旅にまつわるお勧めの本。
もしも一冊の本を基準にして世の中の人を分けるとしたら。かつて小説家の村上春樹さんがドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』をリトマス紙にして、そのような「もしも」を語っていました。もとバックパッカーとしては、断然、旅人のバイブルと呼ばれる、沢木耕太郎さんの『深夜特急』を推します。世の中の人間は『カラマーゾフの兄弟』ではなく、『深夜特急』を読んだことのある人とそうでない人に分けられる。『深夜特急』を読んで人生が変わり、自分も変わったっていう人は、私も含め、本当にたくさん見聞きしますから。日本人に限っていえば、『カラマーゾフの兄弟』の比ではない!
本を読むということは、変わるということ。
教え子には、こんなふうに話します。出会った本の魅力や読み終わったときの気持ちを大切な人にどうやって伝えますか。絵で? それとも言葉で? ある人はこんなふうに言いました。
「自分が変わっていくことだって思うよ」。
その2 人にまつわる本。
半年ほど前のことですが、プライベートでときどき「教え」を受けている某NPO法人代表のOさんから、鳥山敏子さんと真木悠介さんの共著『創られながら創ること』をプレゼントされました。Oさんは田舎教師でも都会教師でもありませんが、東京都の小学校の教員だった鳥山敏子さん(1941ー2013)の弟子筋に当たる、ユニークな人です。
Oさんと知り合うまで、勉強不足で鳥山敏子さんのことは知りませんでした。だから鳥山敏子さんのことを知り、小学校の教員なのにあの見田宗介さん(真木悠介は筆名)と一緒に本を書いていた人がいたなんて(!)と本当に驚きました。映画にもなっている「豚一頭丸ごと食べる授業」などの実践にも、ホント、びっくり。
旅としての授業。
鳥山敏子さんの授業を、真木悠介さんはそう評しています。『旅のノートから』などの著書があり、旅人でもある真木悠介さんが言うのだから、きっとそうなのでしょう。Oさんからプレゼントされた『創られながら創ること』、学校の先生にも、バックパッカーにも、ぜひ読んでほしいなぁ。
先日、クラスの女の子が『ビルマの竪琴』を読んでいました。まだ10歳なのに、なんて渋い選択なんだ。読書の秋。子どもたちには「まだ誰も知らない、新しい世界」にたくさん出会ってほしいものです。私も、負けてはいられません。
HELLO WORLD ♬