9月11日に起きた恐るべき残虐テロは、世界の出来事においてきわめて新しいものである。規模とか性質の話ではない。標的が違うのだ。米国は、1812年の英米戦争以来、本土を攻撃されたことはなく、脅威すら受けたことがない。多くのコメンテイターが、真珠湾と対比したが、これは誤解を招く。1941年12月7日に攻撃されたのは、二つの米国植民地にある軍の基地だった。米国はハワイを「領土」呼ばわりするのを好んだが、実際は、領土ではなく植民地だった。
(ノーム・チョムスキー『9.11 アメリカに報復する資格はない!』文春文庫、2002)
こんばんは。仕事帰りに立ち寄った喫茶店で、ミシェル・クオさんの『パトリックと本を読む』を読み終えました。ティーチ・フォー・アメリカのプログラムにより、貧困地域にある学校へと派遣された著者の自己発見と他者理解の記録です。誰かと共有したい「切り口」にあふれた一冊で、例えば《でも僕は貧しくて、持っているのは夢ばかり》というくだり。或いは《本を読めば、たとえつかのまだろうと、人は予測を超えた存在になれる。それが読書の力だ》というくだり。暫定ですが、今年読んだ本の中ではナンバー1のように思います。副題は、絶望から立ち上がるための読書会。光と闇のコントラストが、9.11のように、
強い。
9月11日ということで、ノーム・チョムスキーの『9.11』をパラパラと読み返しました。アメリカは実は世界中でテロを繰り返してきたんですよ、だからやり返されたんですよ、知っていますかという、事実に基づく告発の書です。
チョムスキー = 米国にとって最重要の「米国批判者」。
20代の頃の私を夜な夜な夢中にさせてくれたチョムスキーは、生成文法理論で言語学に革命をもたらした言語学者であり、アナキストを自認する左翼活動家でもあります。初任校のときにお世話になったアメリカ人のAET(アシスタント・イングリッシュ・ティーチャー)曰く「彼には、アメリカに報復する資格はない(!)と語る資格がある」云々。チョムスキーの大ファンだったんですよね、そのAET。懐かしいなぁ。
有名な話があります。
2005年8月6日の毎日新聞に掲載されて、ネット上でもよく言及されていた話です。8月6日といえば、もちろん原爆。ソ連を牽制すべく、アメリカが原爆を投下したのはチョムスキーが16歳のときのこと。チョムスキーはそのとき林間学校に参加していて、母国の蛮行を子どもたちと一緒にラジオで耳にすることになります。
ショックを受けるんですよね。
原爆を投下したことに、ではなく、周りにいた子どもたちが歓声を上げたことに。ショックは続きます。今度は映画で。50年代にボストンで上映された記録映画「ヒロシマ」を観たときに、被爆者が沸騰した川に飛び込む映像を見て、観客が大笑いしていたことに。いやな笑いです。学級だったら、崩壊末期。館内にいたアメリカ人は、それくらいヤバイ。学級が崩壊する予兆を早い段階でキャッチする担任のように、チョムスキーもその「いやな感じ」に気付いたというわけです。
何を笑うかによって、その集団の本質がわかる。
新しくなった国語の教科書(5年生)に「たずねびと」(朽木祥 作)という広島を舞台にした物語が載っています。原爆で行方不明になった「アヤ」をたずねて、主人公である「綾」が変容を遂げるというストーリーで、3年生の「ちいちゃんのかげおくり」、4年生の「ひとつの花」に続く戦争教材です。これまでと違うのは、ちいちゃんのかげおくりやひとつの花が戦時中を描いているのに対して、たずねびとは戦後を描いているところ。そうすることによって、主人公である11歳の綾に子どもたちが感情移入しやすい設定になっています。
お兄ちゃんも、独り言みたいにつぶやいた。
「信じられないよな。水面が見えないくらい、びっしり人がういてたなんて。」
その川をわたって、慰霊碑にお参りしてから、まず平和記念資料館に向かった。
対比されるかたちで後半に出てくる《わたしはらんかんにもたれた。お兄ちゃんもせかさなかった。昼過ぎに、この橋をわたったときには、きれいな川はきれいな川でしかなかった。ポスターの名前が、ただの名前でしかなかったように》という文章を読んでいるときに、チョムスキーがショックを受けたという話を思い出してしまって、やっぱり教育って大切だな、と。読書って大切だな、と。川にも人にも過去があり現在があり未来があるという当たり前のことに気付ける教育をしないと、絶望から立ち上がることはできないな、と。そんなことを思いました。ちなみにポスターというのは「原爆供養塔納骨名簿」のことで、教科書の本文には《ポスターには、「ご遺族の方や名前にお心当たりのある方は、お知らせください」とも書いてあった》とあります。
だから、たずねびと。
今日国語の教科書(光村図書)に付いている朗読用のCDを使ったら読み方が例年とは違う感じで誰が読んでいるのだろうと思ってみてみたら上白石萌音さんでこの人って確か女優か何かだったかなと思って子どもたちに聞いたら数人の女子が興奮していて更によくみたら渡辺謙の名前もあって大造じいさん興奮 pic.twitter.com/uRssPOMCpu
— CountryTeacher (@HereticsStar) August 31, 2020
おまけの話ですが、「たずねびと」の授業で朗読用のCDを使ったところ、上記にツイートしたようなことが起こって、子どもも私もちょっと興奮。ツイートへの反響もすごくて、これまたちょっと興奮。上白石萌音さんの声による「たずねびと」は映画のようで、具体的には新海誠監督の映画のようで、これまたちょっとというかかなり興奮で、2回も流してしまいました。平和って、いいですね。
明日は土曜授業です😭
戦争と平和。