田舎教師ときどき都会教師

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アンデシュ・ハンセン 著『スマホ脳』(久山葉子 訳)より。運動と睡眠と、他者とのかかわりと。スマホはそれからだ。

 デジタルライフが私たちの脳に与える影響――それに対する懸念は、鉄道酔いや電話の邪悪な魂や、催眠術をかけるテレビのようなものなのかもしれない。技術革新が起きるたびに、ハルマゲドンを予言する人が必ずいるものだ。とはいえ、今回はこうした懸念を深刻に受け止めた方がいいことを示唆する点がある。
(アンデシュ・ハンセン著、久山葉子訳『スマホ脳』新潮新書、2020)

 

 こんばんは。平日の朝はもちろんのこと、土日もしばしばスマホと本を手に電車に乗り込みます。勤務校まで片道約1時間。スマホを開くか、本を開くか。2つのメディアを行ったり来たりというのが実際のところですが、傾向としては、疲れがひどいときにはスマホを、それほど疲れていないときには本を選択することが多いように思います。疲れていることが前提となっているのは、デジタルライフと無賃残業と休日出勤のせいでしょうか。

 いずれにせよ、スウェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセンさんが『スマホ脳』に書いているように、スマホ = 持ち歩き可能なパソコンの登場によって、私たちが《史上最大の行動変容》を余儀なくされていることは間違いありません。教育が目指すところの「行動変容」をいとも容易く実現してしまったスマートフォンという発明。パパの立場として、そして教員の立場として最も気になるのは、それが子どもの成長にどのような影響を及ぼすのかということです。

 大人もすなるスマホといふものを、子どももしてみむとて、するなり。『スマホ脳』の第7章のタイトルは「バカになっていく子供たち」。Facebook で初代 CEO を務めたショーン・パーカー曰く「子どもの脳への影響は神のみぞ知る」。

 

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 なんてことは、まるでない。

 

 

スマホ脳 (新潮新書)

スマホ脳 (新潮新書)

 

 

 アンデシュ・ハンセンさんの『スマホ脳』を読みました。あとがきを書いている訳者の久山葉子さんは、そのタイトルを「人生のバイブルに――訳者あとがき」としています。それくらいインパクトのある一冊ということです。

 

  • 朝夕、電車に乗るときはスマホをカバンの中にしまおう。
  • テストの採点をするときはスマホを遠ざけよう。
  • 寝室にはスマホを置かないようにしよう。

 

 読み終わってから決めたことです。他にもいくつかあります。この「人生のバイブル」を読むと、史上最大の行動変容に抗うべく、今すぐにでもできる小さな行動変容に強く動機付けられるというわけです。一人一台端末の時代を迎え、小学生もスマホを手にするようになった今、久山さん曰く《スウェーデンで今もっとも注目されているというメンタルヘルスのインフルエンサー、アンデシュ・ハンセン》の言葉に耳を傾けない手はありません。何といっても、私たちは《それほまでほぼ存在しなかったものに、1日4時間を費やすまでになった》のですから。

 

 

 上記のツイートをスウェーデン在住の久山さんにリツイートしていただきました。流石スウェーデンの小学校です。速弾きのギタリスト、イングヴェイ・マルムスティーンの母国だけあって、対応が早い。

 イングヴェイ・マルムスティーンをはじめとするハードロックに対して、私の親世代が抱いていた「こんなにやかましい音楽を聴いていたら頭が悪くなる(脳に影響がある)」という憤慨が、10年20年経って結局のところ杞憂に終わったように、もしかしたらスマホが脳に悪い影響を与えるなんてこともないのかもしれません。いつの時代にもあった、モラル・パニックに過ぎないのではないか、と。しかし、やはりハードロックとスマホでは意味合いが異なります。何が異なるのかといえば、以下。冒頭の引用に続く文章です。

 

今の私たちは新しいテクノロジーをどこにでも持ち歩き、基本的に昼夜を問わず使っている。昔、1日6~7時間も列車に乗る人はいなかった。誰も1日6時間も電話で喋らなかったし、コートのポケットにテレビを入れて持ち歩く人もいなかった。だがスマホやパソコンは一日中使っている。それがこれまでの技術革命とは異なる点だ。

 

 スマホは、私たちの時間配分を変えてしまった。

 

 人間が変わるには、すなわち人生を変えるには3通りしか方法がなくて、それは「住む場所を変える」か「付き合う人を変える」か「時間配分を変える」かのいずれかであるって、そう言ったのは経営コンサルタントの大前研一さんです。3つ目の「時間配分を変える」を踏まえると、時間配分を変えてしまったスマホは、私たちの人生を変えてしまったことになります。

 

 スマホは、私たちの人生を変えてしまった。

 

 アンデシュ・ハンセンさんが言うには、人間の脳はスマホに適応していません。私たちの脳は、生物学的にはサバンナで暮らしていた時代と同じで、デジタル社会ではなくアナログ社会の仕様になっているからです。だから今でも、狩猟や採集のために必要だった運動や睡眠を欲求するし、他者とのかかわりも欲求します。

 

 スマホは、それらの欲求を疎外している可能性が高い。

 

 恐らくはその結果として、例えば《スウェーデンでは、眠れなくて受診する若者の数が2000年頃と比べると8倍にもなった。身体を動かす機会も減り、昔のような形では人と会わなくなった。多くの人――特に若い人が、以前よりも孤独を感じ》るような事態になっている。なぜスマホを使うと眠れなくなったり孤独を感じたりするようになるのか。科学的・歴史的な理由を含め、その理路は『スマホ脳』に譲るとして、いずれにせよ、

 

 私たちは、スマホの使い方を見直した方がいい。

 

 アンデシュ・ハンセンさんが『スマホ脳』に込めたメッセージを要約すると、そうなります。故 スティーブ・ジョブズがわが子に iPad を触らせなかったのも、デジタル体験よりもアナログの体験の方が子育てにおいては大切であるということがわかっていたからでしょう。台湾のIT担当相オードリー・タンさんも、探検家の角幡唯介さんも、アナログの体験の大切さを語っています。

 

www.countryteacher.tokyo

 

 めちゃくちゃ眠たいのはスマホのせいでしょうか。或いは休日出勤のせいでしょうか。スマホも仕事も寝室から遠ざけて、そろそろ寝ます。

 

 運動と睡眠と、他者とのかかわりと。

 

 スマホはそれからだ。

 

 

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