田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

猪瀬直樹 著『持続可能なニッポンへ』より。持続可能な公教育へ。

 東京都足立区では児童・生徒数の42.5%が就学援助を受けている、と朝日新聞は格差の拡大の証明のように報じた(06年1月3日付)。だが足立区では4人家族で年収329万円~412万円(幅は家族の年齢構成による)、また6人家族は年収410万円~528万円で、就学援助が受けられる。
 この年収は、裕福とはいえないが必ずしも従来の「困窮家庭」の観念とは違う。地価が上昇に転じた東京都は、他の道府県に比べると潤沢な固定資産税収をはじめとした地方税収がある。景気が回復基調にあるから本社機能が集中する東京都の税収は増えた。そうした余裕資金を、本来なら地価が下げ止まらず、高齢化が深刻な過疎の地方へ分配したほうが公平なのだ。そういう地方共同税的な制度がないので、23区では税収に比較的余裕が生じる。だから就学援助というバラマキが可能で、「大きな政府」になっている。
(猪瀬直樹『持続可能なニッポンへ』ダイヤモンド社、2006)

 

 こんばんは。東京都(23区)では子どもを私立の中学校に行かせているような家庭でも、就学援助を受けているケースが多々あるそうです。区内の小学校で働いている友人がそう話していました。給食もほとんどの区で無料になっているそうだし、いいなぁ。猪瀬直樹さんいうところの《地方共同税的な制度》がないと、地方は置き去りにされるばかりです。

 

 田舎教師も浮かばれません。

 

 田山花袋の『田舎教師』の主人公である林清三には実在のモデルがいて、まさしく《困窮家庭》だったんですよね。だから清三は進学できず、家庭を支えるために、地方にある寒村の小学校に田舎教師として赴任せざるを得なかった。進学する友人たちを羨みながら、です。その頃から「東京」は別格だったようで、清三曰く《東京に出たものが10人、国に残っているものが15人、小学校教師になったものが8人、他の5人は不明であった》とのこと。東京が、まるで外国のような言われ方です。ちなみに清三が生きていたのは(健康を害して死んでしまったのは)日露戦争の時代で、高野辰之と岡野貞一を主人公にした『唱歌誕生』(猪瀬さんの代表作のひとつ)と重なります。高野と岡野にとっての東京も、外国のようなものだったのでしょう。

 

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 もしも林清三が令和の時代に生きていたとしたら、そして教師になるとしたら、彼の《なんでもいいから浮かびあがりたい》というパーソナリティーからいって、田舎教師ではなく都会教師を選ぶように思います。東京都の教員採用試験の倍率は1.1倍(令和5年度、小学校)しかなく、とりあえず上京することは、

 

 容易。

 

 それにしても、倍率1.1倍って、ひどいなぁ。猪瀬さんが都知事だったら、何とかするだろうに。このままでは公教育は、

 

 持続不可能です。

 

 

 猪瀬直樹さんの『持続可能なニッポンへ』をパラパラと再読しました。前々回のブログで紹介した『この国のゆくへ』の続編です。読むと、およそ20年前にあたる2006年にニッポンがどんな課題を抱えていたのかがわかります。同時に、2024年現在、それらの課題がどうなったのかということについての解像度が高まります。

 

 目次は以下。

 

 第1章 地方が元気な国づくり
 第2章 農業は今後の有望産業
 第3章 ニート問題ー日本の若者に夢はあるか!?
 第4章 耐震偽装問題の実情に迫る!
 第5章 政策金融と特別会計
 第6章 財政再建と政治課題
 第7章 赤字大国ニッポンの財政再建
 第8章 検証!道路公団民営化

 

 ゲストとして名を連ねているのは、第1章が北川正恭、逢坂誠二、渡辺幸子、上山信一、小林慶一郎、第2章が石破茂、安住淳、武内智、南部靖之、阿部正人、第3章が渡邉美樹、南部靖之、小杉礼子、第4章が和田章、米田雅子、吉岡達也、清水克利、内田誠、第5章が太田誠一、馬淵澄夫、小林慶一郎、高瀬淳一、第6章が中川秀直、第7章が柴山昌彦、木原誠二、浅尾慶一郎、小林慶一郎、そして第8章が尾立源幸、大宅映子、ロバート・フェルドマン、小林慶一郎です。現在、自民党の総裁選に向けて名前が取り沙汰されている石破茂さんだったり、それからその後文部科学大臣(第24代)になる柴山昌彦さんだったりの名前があって、前著『この国のゆくえ』に引き続き、

 

 猪瀬さんの人望の厚さがうかがえます。

 

 前々回のブログでは、総裁選云々の流れで河野太郎さんと林芳正さんの発言を紹介しました。せっかくなので、同じ流れで石破茂さんの発言をひとつ、以下に紹介します。

 

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石破 私は若いころ、台湾にナシを買ってくれとお願いしに13回も行ったんですよ。猪瀬さんがおっしゃったように、いまは非常にいい商品として台湾で売れるようになった。中国人は贈答文化を持っていますから、お祭りのときに珍しい果物でお客さんをもてなすというのがステータスで、一個千円でも売れるわけですよね。ところが、実際のところナシづくりというのは非常に条件が悪い。なんで鳥取県がナシの生産量が高いかというと、傾斜地でつくれるものがナシだったということなんです。
猪瀬 ハンディキャップを逆に利用したわけですね。

 

 石破さんは鳥取1区選出の衆議院議員です。地方のことをよくわかっていることから、非常に条件が悪い田舎教師の労働環境についても憂慮すべきこととして考えてくれるかもしれません。都会教師と違って専科の先生が不在で持ちコマ数が多く、授業準備の時間はもちろんのこと、空き時間がないために同僚の先生の授業から学ぶ機会もほとんどないというのが田舎教師の現状であり、課題です。では、優秀な若者に田舎教師をすすめるためにはどうすればいいのか。

 

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 猪瀬さんが言っているように、ハンディキャップを逆に利用するしかないでしょう。田舎教師の魅力は上記のブログに書いたので、ぜひ。ちなみに『持続可能なニッポンへ』には、ナシの話だけではなく、第1章をはじめ、地方が元気になるためのヒントがたくさん書かれているので、こちらも、ぜひ。

 

 この日本酒も、ぜひ。

 

新政No.6(2024.8.26)

 

 お酒も、地方の魅力のひとつだなぁと思います。秋田の新政No.6、うまい。No.1かもしれない。また飲みたい。

 

 最後にもうひとつ。

 

猪瀬 柴山さん、元住友不動産としては、いまのお話はけっこう納得できるんじゃないですか。
柴山 どれだけの利回りが、いまの金利水準で確保できるかというところですね。要は、一般投資家がその証券を買うようにするためには、その証券にうまみがないといけない。

 

 文部科学大臣だった柴山さんは、元住友不動産なんですね。で、こう思います。それは本当に適材適所だったのか、と。1年も経たずしてその役を降りてしまいましたが、そもそも持続可能だと思ったのか、と。どんなうまみがあったのか、と。

 

 もしも猪瀬さんが文部科学大臣だったら。

 

 おやすみなさい。