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猪瀬直樹 著『この国のゆくえ』より。政局ではなく、政策を報じてほしい。

 2005年夏、郵政国会は参議院でヤマ場を迎えていた。新聞社の政治部は、解散だ、解散だ、と煽り立てている。政治記者は首相の交替だ、いや政権交替だ、と騒ぎたい。政局が仕事だと勘違いしている。彼らにとって4年も続く長期政権は、髀肉の嘆を託つもので、退屈きわまりないのだ。
(猪瀬直樹『この国のゆくえ』ダイヤモンド社、2006)

 

 こんにちは。2005年が2024年になっても、首相の交替だ、いや政権交替だ、とメディアが騒いでいて残念に思います。政局ではなく、政策を報じてほしい。そう感じている人が多数派を占めれば、この国のゆくえにも少しは期待がもてると思うのですが、どうでしょうか。新聞の総発行部数は過去20年で、

 

 半減。

 

 朝日にせよ読売にせよ、20年後には消滅しているかもしれません。大人の新聞離れが進み、活字離れも進み、子どもたちは活字ではなく動画から情報を得るようになって、新聞社のゆくえはこの国のゆくえ以上に危うく映ります。政局ではなく政策が政治家の仕事だと、子どもたちにそう思わせてくれる新聞があれば、NIE(Newspaper in Education)に力を入れる教員も出てくるだろうに。

 

 残念。

 

 新聞を含めたメディアが政局ではなく政策を報じることをきちんと仕事にしていれば、猪瀬直樹さんが東京都知事を辞めることもなかっただろうに。

 

 残念。

 

www.countryteacher.tokyo

 

 政策を報じてほしい。過去にその政治家がどのような政策を主張していたのかについても報道してほしい。そしてその政策が実行されたのかどうかも報道してほしい。実行されていないのであれば、その理由も報じてほしい。小学生にもわかるように報じてほしい。この国のゆくえからいちばん長く影響を受けるのは、この国の子どもたちだからです。

 

 

 猪瀬直樹さんの『この国のゆくえ』をパラパラと再読しました。2005年から2006年にかけて放映された「月刊ニュースの深層」(猪瀬さんがキャスター)という朝日ニュースター(CS放送)の人気番組を単行本化したものです。読むと、およそ20年前にあたる2005年のこの国の政治状況がわかります。同時に、2024年現在の政治状況についての解像度が高まります。

 

 目次は以下。

 

 第1章 日本の戦後政治と小泉政治
 第2章 郵政民営化ー誰のための民営化か
 第3章 郵政民営化ー財政問題と郵政事業
 第4章 財政再建ー借金だらけの日本への処方箋
 第5章 9・11総選挙ー日本の政治を問う
 第6章 圧勝自民党ー今後の政治課題

 

 ゲストとして名を連ねているのは、第1章が田原総一朗、第2章が五十嵐文彦、ロバート・フェルドマン、松原聡、第3章が跡田直澄、荒井広幸、伊藤公介、大村秀章、永田寿康、荻原博子、第4章が河野太郎、河村たかし、小林興起、小林慶一郎、第5章が林芳正、浅尾慶一郎、そして第6章が片山虎之助、中川秀直、岩井奉信、山崎元、清水建宇です。現在、自民党の総裁選に向けて名前が取り沙汰されている河野太郎さんだったり、林芳正さんだったり、

 

 猪瀬さんの人望の厚さがうかがえる面々です。

 

 せっかくなので、河野太郎さんと林芳正さんの発言を拾ってみます。まずは借金だらけのこの国をどうするかというテーマで話し合っている第4章より。

 

猪瀬 じつは最終的に問題なのは、意思決定の統合機能がないということだと、僕は思うんです。いま小林さんが提起した特別会計のほうからも、きちんとお金を絞り出せば、十兆円、二十兆円はなんとかなるんですよ。そういうものを、子育て支援に持っていくとか、やり方はあるんです。しかし税は税、予算は予算だし、国会議員は国会議員で、各省庁の役人を、個別に追及している。全体がバラバラなんです。
 統合機能をもってやるべきだと思うんだけど、じゃあ小泉さんが総理大臣だから、総理大臣の権限で進める。経済財政諮問会議にグッと絞ってやる。そうすると今度は、小林さんが「いや、手続きを踏んでない」と、こうなっちゃう。
小林(興) 手続きを踏んで、きちんとやればいいんですよ。
河野 それは日本の民主主義ぼけですよ。議会制民主主義での与党の役割というのは、首班指名までなんですよ。首班指名のあとは、内閣が国会に対して責任をとりながら政策を遂行していけばいい。いまの自民党みたいに、「手続きがおかしいじゃないか、と与党が言っています」みたいな話というのは、完全にぼけている話。それはもう、中国の全人代と共産党の関係みたいなものです。ですから、そこはやっぱり内閣に全権限をしっかり渡して、統合的にやるべきだと思いますよ。
猪瀬 議院内閣制のイギリスでも、やはりある程度内閣がきちっとやるわけでしょう。
河野 政府のなかに入った政治家が、政策をつくる。それが基本です。

 

 というような会話を読んでも、正直、私にはよく理解できません。が、当時40代の前半という若さの河野さんが、大先輩たちを相手に、物怖じすることなく発言していることはよくわかります。Googleに「日本  借金  推移」と入力して画像検索すると、この国が辿った2005年以降の「ゆくえ」もよくわかります。おそらくは政治家が政策をつくるという基本が蔑ろにされ続けたのでしょう。やはり、メディアは政局を報道している場合ではありません。この20年で、

 

 借金、倍増。

 

財務省のHPより(日本の借金の状況)

 

 冒頭の引用は、この第4章の最後に掲載されている猪瀬さんのコラムから引用したものです。そのコラムの最後に、猪瀬さんは《僕のメディア不信の根は深い》と書いています。林さんが登場する、続く第5章のコラムにも《総選挙の公示直前だった。地上波のテレビ局は刺客候補の話題で大騒ぎである。そのさなかに自民党と民主党の若手議員がこれほど熱心に政策を論じていたのだ》と書いていて、政局ではなく政策を報道しろ(!)という公憤が透けて見えます。

 

 郵政民営化のメリットは?

 

 林さんが熱心に論じていたことのひとつが、郵政民営化のことです。河野さんと同様に、林さんも2005年当時は40代前半。猪瀬さんの《民営化するとこんないいことがあるというのを、まずわかりやすく三点くらい、パッとあげてみてください》という問いに対して、

 

 パッ。

 

 そうです。それからもうひとつが、よくいわれていることですが、財政投融資の改革につながる、ということです。政府はいままでも、特に2001年4月からは大胆に、財政投融資の改革を進めてきました。しかしその前といったら、郵政に入っていったお金が、財政金融という枠組みのなかで、自由にどんどん使われていた。
猪瀬 道路公団をはじめ、いろいろなところに、ジャブジャブ入っていました。

 

 うん。わかりやすい。ではなく、難しい。難しいって、そう感じてしまう国民が多ければ多いほど、メディアはおそらく政策ではなく政局を報道し続けるような気がします。その方が発行部数や世帯視聴率(テレビをつけている世帯)を稼げるからです。が、この20年で発行部数は半減、世帯視聴率も急減。

 

 つまり、稼げていない。

 

 そうであれば、政局ではなく政策の報道に力を注いだ方が、この国のゆくえに灯をともすという意味でも、ベターです。小学生にもわかるように報じてくれれば、さらにベターです。話はちょっとずれますが、考え・議論する道徳よろしく、報道される政策について、大人が考え・議論するゆとりができれば、さらにさらにベターです。つまり、

 

 長時間労働にメスを入れて、

 

 持続可能なニッポンへ。