テクノロジーが進歩し、インターネットで世界中の誰とでもリアルタイムにやりとりができて、ネットで注文したものが即日届くこの時代。それでも我々は毎日顔を洗い、着替え、時間をかけてバスや電車に乗って教室やオフィスに集まる。なぜだろうか。朝起きて仕事に行く準備に1時間、片道1時間の通勤を1か月間も続ければ、その時間だけで約3日分を費やしたことになる。1年続ければ、およそ1か月分だ。それでも我々は移動をやめない。それは一体なぜか。
(吉藤健太朗『「孤独」は消せる。』サンマーク出版、2017)
こんばんは。それは一体なぜかといえば、人に出会うためでしょう。村上龍さんの『歌うクジラ(下)』でいうところの《生きる上で意味を持つのは、他人との出会いだけだ。そして、移動しなければ出会いはない。移動が、すべてを生み出すのだ》というのが理由です。ロボット・コミュニケーターの吉藤オリィこと吉藤健太朗さん(以下、オリィさん)も、上記の引用に続けて《おそらく、人は人に会うために外に行くのだ。人の営みに参加するために、我々は外に出かけるのだ》と書いています。大切なのは、
移動。
念願の「分身ロボットカフェ DAWN」に足を運んだところ、なんと、吉藤オリィさん本人に会えるという僥倖に恵まれました。舞い上がりながら&ドキドキしながら「話しかけてもいいですか?」と尋ねたところ、気さくに応えてくれました。めちゃくちゃ仕合わせでした。学年の子どもたちを連れていきたい。 pic.twitter.com/qQh9GnWXz8
— CountryTeacher (@HereticsStar) August 12, 2024
先日、念願だった「分身ロボットカフェ」に「移動」したところ、なんと、オリィさん本人に会えたんです。Barカウンターでレアチーズケーキを食べていたら、OriHimeパイロットのミヨシさん(髙橋美喜さん)が「あっ、オリィさん来てますね」って教えてくれました。振り向くと、お店の反対サイドに黒い白衣を着たオリイさんが立っているではないですか。ミヨシさん、けっこう離れているのに、よくわかったなぁ、という感想はさておき、
いざ、オリィさんのもとへ。
リアルオリィさんに会ったのは2回目です。1回目は2019の年2月26日。代官山の蔦谷書店で行われたトークイベントに、乙武洋匡さんの対談相手として、オリィさんが来ていたんです。あのときも黒い白衣を着ていました。で、めちゃくちゃおもしろかったんですよね。乙武さん目当てで参加したイベントでしたが、終わる頃には完全にオリィさんのファンになっていました。
話しかけてもいいですか?
舞い上がっていたので、その後の会話の流れをよく覚えていないのですが、オリィさん曰く「今日も実験をしているんです」とのこと。そう話すオリィさんの目線の先にいたのは、テーブルにドリンクを運んでいた、このOriHimeロボットです。
オリィさん曰く「小回りが利くように改良したんです。それを確かめにきました」云々。その話を聞いて、学生時代(工学部)のことを思い出しました。ロボット工学を専門としている教授が「ドアノブを回して病室に入るような、人間だったら簡単に出来る動きでさえ、ロボットに実現させるのは難しい。本当に悔しい」って、研究室の配属を決めるためのガイダンスのときに涙ながらに話していたんですよね。20年以上も前の話です。誰かの役に立つものをつくりたい(!)という研究者のエネルギーは、昔も今も、すごい。だからテレバリスタのみちおさんが珈琲を淹れてくれたときには思わず見入ってしまいました。
テレバリスタのみちおさん(今井道夫さん)は広島在住のOriHimeパイロットです。精神障害で外出困難になっているとのこと。ちなみにBarカウンターにいたミヨシさんは秋田在住で、介護のために外出困難になっているとのこと。レジにいたるうさんも、ドリンクを運んでいたけいさん(安達桂子さん)さんも、それぞれ別の理由でこのカフェに来ることはできず、遠く離れたところからOriHimeを介して働いています。彼ら彼女らは「パイロット」と呼ばれています。オリィさんがつくったOriHimeのおかげで、パイロットのみなさんは自宅にいながらにして「移動」することができるというわけです。移動によって、
「孤独」は消せる。
吉藤健太朗さんの『「孤独」は消せる。』を読みました。不登校でコミュ障で、自宅で折り紙ばかりつくっていたオリィ少年が、やがて一人の恩師に出会い、全人類の孤独の解消という夢に向けて羽ばたき始める。ざっくりいうと、そういった自伝です。以下、ネタバレ回避&長文回避&ぜひ手にとって読んでほしいのであまり詳しくは説明しませんが、
少しだけ。
ちなみにオリィという名前は早稲田大学在学中に「オリガミ王子」と呼ばれたことがきっかけで、そう名乗るようになったそうです。そのときオリィさんは「社交ダンス部」に入っていたとのこと。その理由がふるっています。
社交性を身につけるため。
社交ダンス部が主催するGWの合宿にも参加した。練習と宿での酒盛りや、いちご狩りにBBQなど。できる限り積極的に順応しようとしたが、あまりにも異世界すぎて、うまく順応できない……。1人でかなり浮いていて、正直、結構辛かった。
結局、辞めてしまったそうです。続けて《その他、十以上のサークルに入っては、対人に苦労して辞める体験をした》とあります。オリィさんほどではありませんが、私もコミュ障なので、わかる。
めちゃくちゃわかる。
集団は苦手、でも対個人ならけっこういけるというところも、わかります。めちゃくちゃわかります。おそらくそのひとり(?)である結城明姫さん(株式会社オリィ研究所の共同創設者)の次の言葉には愛が感じられて、
よい。
吉藤健太郎さんの『「孤独」は消せる。』を読み始める。冒頭に《吉藤さんは夜行性で、物忘れが激しく、常識知らずで、空気を読まないし無茶ばかりするし、いつまで経っても子どものよう》(結城明姫さん)とあり、まるで「親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている」坊っちゃんのよう。大事だ。 pic.twitter.com/SuUcrnn68C
— CountryTeacher (@HereticsStar) August 14, 2024
大人になるというのは大人にもなるということであって、子ども心を捨ててはいけないんです。だから《いつまで経っても子どものよう》って、大事。
最後にひとつだけ。学校教育に関するところを引きます。
目標ができたことで少しずつ学校にも行けるようになり、授業にも出るようになっていった。だが他の生徒とは勉強の進み方も違うので、結局、授業にはうまくついていけずに独学。質問があるとくだけ学校に行くようになる。
このとき既に、学校は「行くのが当たり前」ではなくなり、「行きたいときに行くもの」に気持ちが変化していた。この考え方はのちに高校時代、高専時代、大学時代でも膨大になったやりたいことの取捨選択をするうえで非常に役に立った。
オリィさんのようなタイプの子どもに対して、公教育は無力なのか。そういった見方・考え方を働かせながらこの『「孤独」は消せる。』を読むのもいいかもしれません。不登校だったオリィさんですが、素晴らしい先生に出会っているんですよね。そういった出会いがなければ、OriHimeロボットも、分身ロボットカフェも、そして「孤独」は消せるという考えも、生まれなかったはず。だからこう思います。
公教育は、結局、人。
おやすみなさい。