旅の話でもするか。よく旅をしたっけ。まだ誰もが外国なんぞに行けなかった頃の話をしよう。どこから書くか。整理がつかない。思い出すまま、気の向くままだ。
南まわりでヨーロッパに行ったっけ。金がないからソビエト航空、つまり「アエロフロートロシア空港」。まずバンコク、その前に香港があったか。バンコクの空港なぞ十畳くらいなもんで、五、六人の奴がブラシで空港の床を掃除していた。
(立川談志『立川談志自伝 狂気ありて』ちくま文庫、2019)
こんにちは。先々週の振休なしの土曜授業のおかげ(?)で、昨日と今日の土日休みが文字通り「有り難く」感じられます。昨日読み始めた猪瀬直樹さんの新刊『太陽の男 石原慎太郎伝』に登場する「価値紊乱者」と同じくらい有り難いものとして感じているかもしれません。週休二日なんて当たり前のはずなのに、うん、おかしい。
紊乱(びんらん)→ 乱れること。乱すこと。
猪瀬直樹さんの新刊『太陽の男』をゲット。サイン入り。大ファンなので、嬉しい。三島由紀夫はなぜ「価値紊乱者」石原慎太郎に追い詰められたのか。今回もまた「問い」が秀逸すぎます。価値紊乱者という言葉の選択も神。学校教育にこそ価値紊乱者が必要だって、毎日そう思っているから、ほんと刺さる。 pic.twitter.com/7YeHYm9w8M
— CountryTeacher (@HereticsStar) January 27, 2023
もしも学校に「価値紊乱者」がいれば、振休なしの土曜授業もマスク姿の卒業式も無賃労働もとっくになくなっていたかもしれません。具体的には、石原慎太郎(1932ー2022)みたいな人がいれば、あるいは立川談志(1935ー2011)みたいな人がいれば、昭和のまま何も変わっていないと揶揄される学校も、変わらないために変わり続けることができたかもしれないということです。もうそろそろ「前へならえ」はやめよう。令和なんだから「右向け右」もやめよう。正直、石原慎太郎や立川談志みたいな人と一緒に働くのはイヤだけど、残業ありてよりも、狂気ありての方がイイかもしれない。
狂気ありて。
立川談志の『立川談志自伝 狂気ありて』を読みました。立川談志の本を読むのは初めてです。中島岳志さんの『思いがけず利他』に、立川談志の落語論が載っていたことがきっかけで、
思いがけず読了。
目次は以下。
まえがき
第一章 負けず嫌いで皮肉なガキだった
第二章 現在の職業になる如く
第三章 いわゆる波乱万丈の人生だ
第四章 アフリカ、もう行けまい
第五章 エゴの塊のような気狂いが老いた
年表
インタビュー 父・立川談志
巻末のインタビューを受けているのは息子さん(松岡慎太郎)です。息子さんがいるのはもちろんのこと、寡聞にして、立川談志が政治家(参議院議員)だったことすら知りませんでした。同じく政治家でもあった、価値紊乱者・石原慎太郎との絡みも出てきます。ちなみに息子さんの名前は石原慎太郎ではなく、幕末の志士中岡慎太郎が好きで付けたとのこと。
フロリダから乗った豪華船のカジノで二千ドル取られた娘の負けを、五千ドルを持っていって一発勝負で取り返したこともあったし、選挙のときも不利な自分を見て、これまた ”ドカンと張れ” で金を使った。使ったとはいえタレント候補、たかが知れてるけどネ・・・・・・。三十五歳のときだった。
石原慎太郎が百万円くれて、驚いたっけ。それが数年永田町(あそこ)にいると、”何だ「三百万(みっつ)」か”なんというようになる。
石原慎太郎の「ヨット」といい、立川談志の「豪華船」といい、スケールが異次元なんですよね。ガス代と電気代が跳ね上がったことにびびったり、土日休みが「有り難い」とか書いちゃったりしている私とは次元が違います。冒頭の引用は第四章の「アフリカ、もう行けまい」からとったものですが、これなんかも学校教育にある程度適応して平々凡々な人生を歩んでいる私からすると、単なる旅行ではなく、ちょっとした冒険のように映ります。第三章の「いわゆる波乱万丈の人生だ」には、芸人なんだから女だけではなく男も知らなければいけないっていう流れで「カマァ買った」なんていうエピソードがサラッと書かれていて、やはり異次元。ちなみに女も男も知ることを「色道二道」というそうです。価値紊乱者の典型ともいえる織田信長もその類いだったとのこと。では、どうやったら社会を変えるような「狂気」を宿した価値紊乱者を育てることができるのでしょうか。
学校では難しい。
教育ができることは、極力邪魔をしないこと。そう思います。だからこそ、学校が子どもたちを拘束する時間をもっと短くしたい。小学校は、毎日5時間授業でいい。立川談志は《勉強なんて一度もしたことはない》と書いているし、石原慎太郎だって高校2年の2学期から休学して、《教科書参考書をすべて投げ出して、自分の読みたいものだけを読み、描きたかった絵を描き、芝居やオペラ、コンサートを観聴きして廻り、酒を飲み、はたから見れば自堕落だろうが実は精神的には今までのいつよりも緊張し勤勉な時を過ごした》(猪瀬直樹『太陽の男 石原慎太郎伝』より)そうですから。
子どもにゆとりを。
教員にもゆとりを。
岸田文雄首相には、そういった方向で公教育を後押ししてほしい。
次は男の子。二人とも目黒で生まれたが、どうやって育てたか、一つも覚えていない。生まれた病院も知らない。小学校も、中学校も知らない。女房が独りでやったのだろう。
うん、子育てについても異次元です。とはいえ、令和の今、これは困ります。産休・育休中の学び直しについて「後押しする」と答弁した岸田文雄首相(27日)に批判が殺到しているそうですが、それはそうでしょう。産休・育休中の生活に対する「暇でしょ?」みたいな価値観は、それこそ紊乱されなければいけなません。どうやって育てたのか、一つも覚えていなければ、適切な方向に後押しすることなんてできませんから。立川談志だったら、この岸田首相の発言をどのように皮肉ったでしょうか。するってぇと何かい。これが噂の岸田リスクかい?
俺もだ。男子リスクだ。
お後がよろしいようで。