田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

今井むつみ 著『学力喪失』より。はじめに記号接地ありき。

磯田さんは子どものころ、倉敷市にある弥生時代の墳丘墓、楯築遺跡に、岡山の自宅から何度も通っていた。自転車で10㎞の道のりである。雨の後、土器のかけらを探しに来ていたそうだ。そして、小学生のとき、自分の身長くらいの古墳を作ったそうだ。古墳の…

横道誠 著『なぜスナフキンは旅をし、ミイは他人を気にせず、ムーミン一家は水辺を好むのか』より。すこやかに自閉する。

共同生活をするスナフキンは、不在のムーミン一家がとても恋しくなります。それはこの一家のメンバーのニューロマイノリティの特性が強く、それぞれの自閉度が高いからです。 はっと急に、スナフキンは一家のことが恋しくて、たまらなくなりました。あのひと…

吉見俊哉 著『大学とは何か』より。小学校とは何か。

プロテスタント系コミューンの信仰者としての森と初代文部大臣としての森をつなぐ一本の線を、園田英弘は「制度」への関心と要約している。園田によれば、『明六雑誌』時代までの前期の森の発言を重視して彼を自由主義の思想家と見る議論も、文部大臣となっ…

城山三郎 著『黄金峡』より。福島県只見川田子倉ダム補償事件をモデルにした社会派小説。

織元は、ダム建設に純粋に命を懸けている。なぜそれほど命懸けになるかは詳しく描かれていない。しかし、この小説が、足掛け8年に及ぶ補償交渉が1956年(昭和31年)に妥結した福島県只見川田子倉ダム補償事件をモデルにしていることを考えると彼の立…

井伏鱒二 著『太宰治』より。縁は二人で育むもの。

「あのころの太宰は、あなたに相当あこがれていましたね。実際、そうでした。」 桃子さんは、びっくりした風で、見る見る顔を赤らめて、「あら初耳だわ。」 と独りごとのように云った。「おや、御存じなかったんですか。これは失礼。」「いいえ、ちっとも。―…

高野秀行、清水克行 著『世界の辺境とハードボイルド室町時代』より。空前絶後の奇書!

清水 僕もいくらか農村調査はやってきましたけど、確かに今はもう日本の農村に行っても、戦前の暮らしが垣間見えればいい方で、とても前近代は体感できないんですよね。だから、これから前近代史研究を志す人は世界の辺境に行ってみた方がいいのかもしれませ…

山内聖子 著『日本酒呑んで旅ゆけば』より。酒縁も書縁も、育むもの。

私はじっくり飲んで酒をわかりたい亀タイプ。唎き酒に近いちょっと口をつけた(喉を通した)程度の酒は、ただ上澄みをかすったようなもので、知っている銘柄にはカウントしていない。名前を聞いたことはある、てな具合。20年かけてようやく知っている銘柄…

松本俊彦、横道誠 著『酒をやめられない文学研究者とタバコをやめられない精神科医が本気で語り明かした依存症の話』より。依存は回復の始まり。

そこで私はふと毎夏ニュースになる「パチンコをやっていて子どもを高温の車中に置き去りにしてしまう」親のことを思い出しました。もし私にもっと仕事のストレスがかかっていたら? 家族からDVを受けていたら? 子猫よりもっともっと手のかかる人間の赤ち…

山内聖子 著『Beginnig Nihonshu・Japanese Sake ~はじめての日本酒~』より。酒屋万流、教室万流。

「酒屋万流」ということばがあるのですが、酒蔵によって「米を洗う」作業ひとつとっても手法は異なります。また、つくり手はとても研究熱心なので毎年のように新しい試みにチャレンジし、技術は時代ごとにどんどん更新されています。(山内聖子 著『Beginnig…

マルセル・モース 著『贈与論』より。この本自体が、贈与。

われわれは、このような道徳と経済が今もなお、いわば隠れた形でわれわれの社会の中で機能していることを示すつもりである。また、われわれの社会がその上に築かれている人類の岩盤の一つがそこに発見されたように思われる。それらによって、現代の法と経済…

宇佐見りん 著『推し、燃ゆ』より。この本、推します。

あたしには、みんなが難なくこなせる何気ない生活もままならなくて、その皺寄せにぐちゃぐちゃ苦しんでばかりいる。だけど推しを推すことがあたしの生活の中心で絶対で、それだけは何をおいても明確だった。中心っていうか、背骨かな。(宇佐見りん『推し、…

今井孝 著『いつも幸せな人は、2時間の使い方の天才』より。タイトルが全てを物語っています。

幸せな人たちの1日の大部分は、普通の人と同じです。 しかし、ひとつだけ大きな違いがあったのです。(今井孝『いつも幸せな人は、2時間の使い方の天才』すばる舎、2024) こんばんは。著者の人柄でしょう。とても親切なタイトルです。タイトルの『いつも…

谷崎潤一郎 著『陰翳礼讃』より。西洋の明るみに、日本の暗がりの深さがわかるものか。

拠んどころなくこういう風に致しましたが、やはり昔のままの方がよいと仰るお方には、燭台を持って参りますという。で、折角それを楽しみにして来たのであるから、燭台に替えて貰ったが、その時私が感じたのは、日本の漆器の美しさは、そういうぼんやりした…

千葉雅也 著『現代思想入門』より。別に飲みに行きたきゃ行けばいいじゃん。

ここでデリダに戻ってみます。 一方で、二項対立を組み立てることでひとつの意味を固定しようとするのが常識的思考です。たとえば「大人は優柔不断であってはいけない」といったもの。そこでは暗に子供的なあり方や、決断が揺らぐことが排除されています。そ…

磯田道史 著『日本史を暴く』より。教科書にはない史実を学び、授業に役立てよう。

日本では修学旅行は明治十年代から師範学校などで始まった。最初は「長途遠足」などと言っていたが、明治二十年に『大日本教育会雑誌』に「修学旅行」の文言が登場。翌年、「尋常師範学校設備準則」で、修学旅行は「定期の休業中に於て一ヶ年六十日以内」で…