田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

池波正太郎 著『ル・パスタン』より。あなた様はまだ生活をご存じないのでは……。

ジュリオは、子供たちにあたえる果実ひとつにも季節が消えてしまった現代をなげいて、「いまは、いつでも何でもある。けれど、子供に思い出がなくなってしまった」 と、哀しげに、つぶやく。 思い出をもたぬ人間の不幸を、現代人は不幸とおもわぬ。国の歴史…

大岡昇平 著『野火』より。戦争を知らない人間は、半分は子供である。

或る時、川は岸からかしいだ大木の蔭で、巨大な転石の間を早瀬となって越し、渦巻いていた。私は靴を脱し、足を水に浸した。足の甲はいつか肉が落ち、鶏の足のように干からびて、水に濡れにくかった。手の皮膚も骨に張りつき、指の股が退いて、指が延びたよ…

宮崎智之 著『モヤモヤの日々』より。普通のまま発狂したい。

父は中也の代表的な詩「サーカス」の「ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん」という擬音に戯けた抑揚をつけて、僕に聴かせてくれた。それが耳に残り、何度も何度も朗誦をせがんだものだ。父自身は「含羞」という詩が好きで、「なにゆゑに こゝろかくは羞ぢらふ」と…

新藤宗幸 著『教育委員会』より。今も昔も、なぜ、教育委員会が問われるのか?

ほんとうにこの国は、「過剰同調社会」ではないだろうか。経営組織における業績評価と成績主義は行政組織にも導入されるべきだとの言説が展開されるのは、1990年代以降である。いわゆるNPM(新しい行政管理)として、イギリスやニュージーランドには…

堀越英美 著『親切で世界を救えるか』より。学校道徳とは異なる「ケアの倫理」とは?

大正時代の貧しい炭焼き小屋の長男として生まれ、父亡きあと母を支えて家業と弟妹の世話と家事を担っていた炭治郎の行動の基盤は、「ケアの倫理」にある。ケアの倫理とは、儒教道徳のように秩序を守るために一般化された原理ではなく、それぞれ異なる他者の…

ジェリー・Z・ミラー 著『測りすぎ』より。働きすぎ。飲みすぎ。どれもよくない。

世の中には、測定できるものがある。測定するに値するものもある。だが測定できるものが必ずしも測定に値するものだとは限らない。測定のコストは、そのメリットよりも大きくなってしまうかもしれない。測定されるものは、実際に知りたいこととはなんの関係…

久保順平 著『世界の富裕層を魅了する「日本酒」の常識』より。日本酒が廻り日本史が廻る。

近代の日本経済を支えていたのは、お米と日本酒です。諸外国の軍事的圧力をはねのけ、日本が独立を保つのには、このお米とお酒を中心に経済を考えることは自然な流れでした。 もともとお酒は江戸幕府が運上金として50パーセントもの税金をかけて、酒造免許…

村中直人 著『「叱れば人は育つ」は幻想』より。読むと、指導観も児童観も変わります。

中原 「叱る」と「依存」という言葉の組み合わせはキャッチーですよね。自分の「叱る/叱られる」体験を振り返ってみたときに、多くの人がちょっと思い当たるところがある。そこをうまく突いている指摘だと思います。村中 最初は「依存」という言葉を使って…

勅使川原真衣 著『職場で傷つく』より。言えないから、癒えない。

いいですか。繰り返しますが、誰が正しくて、誰が間違っている、という単純な話ではないのです。お互い異なる「持ち味」があるのが人間です。その凸凹がどうもうまくかみ合っていない状態が、組織としてどこか「うまくいっていない」状況と言うべきではない…

宮崎智之 著『平熱のまま、この世界に熱狂したい』より。サウイフモノニ、ワタシもナリタイ。

つまり「何者か」というのは本来、be の話だったのにもかかわらず、どこまでも目的達成的で、存在そのものを顧みない「実感」に乏しいものになっているがゆえに、焦燥感、空虚感にさいなまれる do 的な時間感覚に追われる状態になってしまっているのではない…

源河亨 著『愛とラブソングの哲学』より。愛とは何か、ラブソングとは何か。

ラブソングと愛の関係を考える本書にとって、トルバドゥールの存在は重要です。トルバドゥールたちが作った詩は、「愛とはこのようになされるものだ」という考えを広める役割を果たしました。つまり、歌が愛の概念を広める役割を果たしたのです。そうすると…

柴崎友香 著『あらゆることは今起こる』より。柴崎友香さんと横道誠さんの対談イベントに参加してきました。

運動能力は比較的、生まれつき、というか、各個人の素質がもともと違うと理解されているけれども、発達障害の人が困っていることに関しては、意志が弱い、だらしない、などと判断されがち。「運動能力は各個人の素質だけれど、意志は個人の意志、本人がコン…

アンディ・ウォーホル 著『ぼくの哲学』より。なるったけ長い間赤ん坊でいたらいいと思う。

きれいな人は平凡な見栄えの人より人を待たせる傾向にある。きれいであることと平凡であることの差はずいぶんと大きいよ。きれいな人はたいていの人は待っててくれるって知っているから遅れても慌てない。だからもっと遅れるようになる。そして遅れてくれば…

二村ヒトシ 著『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』より。愛してくれる人を好きになれない。カントが予言し、二村さんが固めた。

「他の人にとられるくらいなら、殺してしまいたい、不幸になればいい」と思うのは恋です。そして、それは愛ではありません。(二村ヒトシ『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』文庫ぎんが堂、2014) おはようございます。上記の引用と、それ…

西川純 著『『学び合い』 誰一人見捨てない教育論』より。生涯レベルの子どもの幸せを目指す。

世の中には優れたノウハウがあります。有名なのは向山先生の跳び箱の跳ばせ方があります。あれは強力だと思います。それを『学び合い』に併用したいと願うのは当然です。併用すれば、跳び箱は早く跳べるようになるでしょう。しかし、子ども達が関わり合い、…