田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

近内悠太 著『利他・ケア・傷の倫理学』より。自己変容とは、物語文の予期せぬ改訂の別名である。

やさしさの一人相撲から、二人相撲へ。 あなたと私が関わることで、私自身が変容する。私自身が救われることになる。 そんな理路を、一緒に進んでいってもらえたら。(近内悠太『利他・ケア・傷の倫理学』晶文社、2024) こんばんは。昨日、勤務校のお別れの…

笠井亮平 著「『RRR』で知るインド近現代史」より。非・非暴力の価値。

ガンディーの「不在」は多くの評論家やメディアが気になったようで、S・S・ラージャマウリ監督にこの点を問い質している。たとえば米誌『ニューヨーカー』は彼へのインタビューで、「スバース・チャンドラ・ボースやバガト・シンのような歴史的人物を目立…

横道誠 著『イスタンブールで青に溺れる』より。横道誠さんの本に溺れる。

発達障害の診断を受けてから、当事者研究(自分の疾患や障害を仲間と共同研究することで、生きづらさを軽減させる精神療法)に取りくんだ僕は、本書を書きながら、自分に何が起こっていたのかを、遅ればせながら理解できるようになっていった。当事者研究の…

横道誠 著『ある大学教員の日常と非日常』より。苦悩することによって人生は輝きを増す。

僕は従来からフランクルには強く共鳴し、論文を書いたこともあるし、『唯が行く!』で当事者研究の思想的源泉として解説した。苦悩することによって人生は輝きを増す、苦悩することそのものに「体験価値」があるというフランクルの思想は、苦悩だらけの僕の…

谷口たかひさ 著『シン・スタンダード』より。教員が生きづらいのは、日本の常識しか知らないから。

僕は、毎日のように全国の学校で講演させてもらっている。 そんななか違和感を抱くのは、今の日本の小学校の先生たちの驚きを隠せないほどの「仕事量の多さ」だ。 通知表だって、とても大変な仕事のはず。「当たり前のようにある」「これまでもそうしてきた…

横道誠 著『村上春樹研究』より。目には目を、ポリフォニーにはポリフォニーを。

確実に言えることは、大江がいなければ村上は存在しなかったということだ。そして、村上が大江を否定しながらサンプリングすることで、村上は村上になることができた。ふたりの「魂」はあまりにも近すぎて、年少の作家として出発した村上は、自分が自分にな…

朝井リョウ 著『風と共にゆとりぬ』より。為になりつつ、心配にもなりつつ、ただただ楽しい。

勤めていた会社を辞めてから、早くも二年が経過した。今のところ心身(肛門以外)共に健康に過ごせているが、兼業生活に戻りたいな、と思うことがしばしばある。それはお金のためでも、社会とつながるためでもなく、単純に、会社勤めをしていたころのほうが…

三浦英之 著『涙にも国籍はあるのでしょうか』より。この国はまだ東日本大震災における外国人の犠牲者数を知らない。

その途上のインドで、私は人生が変わるような体験をした。ある朝、親しくなったインド人に屋台に連れて行かれ、そこで食事をご馳走になった私は、気がつくと身ぐるみ剥がされて道ばたの下水道に横たわっていた。どうやら飲食物に睡眠薬が混入されていたよう…

横道誠 著『海球小説』より。もしも戦後日本がディズニーランドではなかったら。

「探究」の時間は、いつもこんな具合だ。ミノルはいろんなクラスメイトにつきあわされて、ある意味では「モテる」。じぶんが好きなものをなんでも探究して良いというこの時間、クラスメイトたちはよく、いろんな外国語を身につけるために練習に耽っている。…

横道誠 著『創作者の体感世界』より。天才による天才たちの当事者批評を味わう。

当事者批評は、患者の側が作品論ないし作者論をおこなうことで自己の体験世界を表明する点で、「逆病跡学」と位置づけられると考える。本書は、そのようなものとしての当事者批評を、論集のかたちで実践し、筆者の体験世界を改めて立ちあげていく。それはど…

横道誠・青山誠 編著『ニューロマイノリティ』より。教員のみなさん、必読書です。

「ニューロマイノリティ」がタイトルである本書の読者のみなさんにこんなことを言うのは野暮な話かもしれません。ですがあえて言わせていただくと、ニューロマイノリティな人たちへの支援や教育がなすべきことは、多数派の平均値である「定型発達」に、なん…

横道誠 著『発達障害の子の勉強・学校・心のケア』より。保護者と教員に、この本、おすすめします!

まわりに合わせないといけない、それなのにまわりの子のようにはうまくできない、という場面を多く経験するのが発達障害の子どもですから、イベントに参加するのが苦痛だと感じることも多いです。 たとえば運動会は部分参加を、マラソン大会は欠席または別の…

横道誠、頭木弘樹 著『当事者対決!心と体でケンカする』より。生きづらさの往復インタビュー。

横道 私は、やっぱり健康な人との会話が難しいと感じます。基本的に「絶望」マインドだからでしょうね。 発達障害のない人向けの自助グループもやってるんですけど、ありがたいことにというか、参加者はみんな鬱傾向なんですよね。鬱っぽくなって、精神疾患…

横道誠 著『発達障害者は〈擬態〉する』より。それは本当なのか?

発達界隈では、カモフラージュは「擬態」という名で広く知られてきました。海外の研究では自閉スペクトラム症のカモフラージュばかりが目立って注目されていますが、発達界隈では擬態は発達障害者に広く見られるものだと認知されています。(横道誠『発達障…

小澤征爾 著『ボクの音楽武者修行』より。世界のオザワの自伝的エッセイ。

スクーターで地べたに這いつくばるような格好でのんびり走っていると、地面には親しみが出る。見慣れぬ景色も食物も、酒も空気も、なんの抵抗もなく素直に入って来る。まるで子供の時からヨーロッパで育った人間みたいに。美人もよく目についたが、気おくれ…