田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

メルヴィル 著『白鯨(中)』より。「小説」も「教育」も、つまるところ「何でもあり」なのだ。

幹から枝が生え、枝から小枝が生えるように、豊饒なる主題から、あまたの章が生まれる。 前章でふれたクロッチについては、独立の章をもうけて論じる価値がある。それは先端が三叉に割れた特殊な形態をもつ棒で、長さが二フィートほどあり、ボートの舳先近辺…

メルヴィル 著『白鯨(上)』より。鯨を恐れないような者は、私のボートにはひとりも乗せん。

「白鯨のゆがんだあぎとでも、死のあぎとでも、わたしはひるみません。エイハブ船長、それがちゃんとした商売の道理にかなっているのならば、です。わたしがここにおりますのは、鯨をとるためでして、船長の復讐に手をかすためではありません。たとえあなた…

中野円佳 著『なぜ共働きも専業もしんどいのか』より。主婦のしんどさを生み出す構造と、教員のそれは似ている。

その答えは、専業であれ、兼業であれ、さまざまな負担を主婦に押し付けることで社会を回してきた日本の循環構造にあったと私は思う。政府、企業、学校や保育の在り方。そして人々の意識。「女性が輝く社会」という標語がむなしく思えるのも、構造的な女性の…

朝井リョウ 著『正欲』より。地球に留学しているみたいな感覚なんだよね、私。

こっちはそんな、一緒に乗り越えよう、みたいな殊勝な態度でどうにかなる世界にいない。マイノリティを利用するだけ利用したドラマでこれが多様性だとか令和だとか盛り上がれるようなおめでたい人生じゃない。お前が安易に寄り添おうとしているのは、お前が…

山内健生 著『新装版 私の中の山岡荘八 思い出の伯父・荘八』より。愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。

それはともかく、伯父の作品の根底には、すべてとは言わないまでも、ことに長編の場合、「天下国家のより良いあり方」を志向する傾きがあった。現代風に言うと「公」への意識があって、つねに「公」と「私」のかね合いが頭にあったようだ。その意味で「私」…

朱野帰子 著『会社を綴る人』より。山崎豊子さんの『白い巨塔』に勝るとも劣らない社会派小説。

口頭ではなく文書で残す。それが会社の原則だ。会社は夥しい数の社内文書によって、様々な社員の手によって綴られている。 その社内文書を改竄することを許してしまった会社が、こまめに粉の掃除ができるだろうか。過去の事故の記憶を正確に語り継ぎ、悲劇が…

秋山大輔 著『萩原健一と沢田研二、その世紀』より。我と汝、その世紀。

秋山 今の世相ですと皆無ですね。蜷川 学生に教えてあげたいわ。もっと過激に創作する方法や思考を。猪瀬 やっぱりそうだよね。当時はそういう野放図な感じがありましたね。(秋山大輔『萩原健一と沢田研二、その世紀』デザインエッグ、2023) こんにちは。…

朝井リョウ 著『時をかけるゆとり』より。著者の6年生のときの担任、素晴らしいってよ。

ひたすら日記を書き続けていた小学六年生の私にとって、世界でたったひとりの読者は当時の担任の先生だった。毎日提出する日記に返ってくる一言コメントが、唯一の感想だったのだ。まるでどこかで連載をしているプロになったかのような勘違いを、私は精一杯…

平野啓一郎 著『三島由紀夫論』より。執筆開始から23年。670頁の大作。読まねばならない!

本書は、三島が最後の行動に至る軌跡を、その作品に表現された思想に忠実に辿るものだが、では、その死が必然的なものであり、不可避であったかと言えば、必ずしもそうとは思わない。三島自身が政治思想の偶然性を強調している通り、『鏡子の家』に対する文…

佐藤厚志 著『荒地の家族』より。祭りを通して学ぶ、ここが他のどこでもない地元だという根拠の大切さ。

滑らかな白いコンクリートがどこまでも続く。道路ができ、防潮堤が聳え、土地は整備された。日がな一日風が吹きすさび、ひとつとして特徴を見出せない浜を見渡すと、ここがどこだかわからなくなる。実際、どこでもなかった。荒浜でも吉田でも鳥の海でもない…

織守きょうや、坂井希久子、額賀澪、原田ひ香、柚木麻子 著『ほろよい読書』より。君たちはどう生きるか。

「でもま、しょうがないよね。もうナオのいない世界には戻れないし、考えたくもない。体はキツいし悩みごとも増えたけど、全部帳消しになっちゃう瞬間があるから。妊活頑張った甲斐があったよ」「そっかぁ」「いいよ、子供。予測不可能で」 カランと、手にし…

青山美智子、朱野帰子、一穗ミチ、奥田亜希子、西條奈加 著『ほろよい読書 おかわり』より。読書は日常。

「月並みだけど、生牡蠣食べるならこれだよね」と行人が選んだのはシャブリだった。レモンのように酸味が強く、生牡蠣のミネラル感と同調してくれる。一杯目はいつもこれだ。「ワインもいいけど……」と莉愛は迷っていたが、「やっぱ日本酒かな」と純米吟醸を…

村上靖彦 著『客観性の落とし穴』より。これからの社会に必要なのは、数値化の鬼ではなく、物語化の鬼。

「弱肉強食」ではなく「人は弱い」ということを前提とした制度設計が必要である。無償のケア労働におけるジェンダー不平等、無償の家族介護を前提とした介護保険制度、あるいは福祉・介護職における非正規労働・低賃金、そして広義にはケアワーカーであると…

小川糸 著『私の夢は』より。生きている限り、夢は増えていくもの。

日本に戻ってきて、人工物の多さにぎょっとした。ウランバートルは大都会だけど、そこから車で30分も走れば、もう電気もない大草原だったから。日本の町並みを見て、よくぞここまでいろんな物を作ったなぁ、と感心してしまう。 そして、人の多さにもびっく…

今木智隆 著『算数日本一の子ども30人を生み出した究極の勉強法』より。根拠は、小学生30億件の学習データ!

宿題がなくても、子どもたちは毎日学校に通い、5時間、場合によっては6時間も授業漬けなのです。学校が終わってようやく帰宅するころには、脳も肉体も消耗しきっています。そんなフラフラの状態の子どもに宿題を課し、家でもさらに何時間も勉強させようと…