田舎教師ときどき都会教師

テーマは「初等教育、読書、映画、旅行」

中島岳志 著『思いがけず利他』より。5年生の道徳の『手品師』は誠実? それとも思いがけず利他?

それは、親鸞が、「言葉の器」になろうとしていたからだと思います。親鸞にとって、『教行信証』を書く自分は、先人の言葉をつなぐ触媒にすぎません。言葉は私のものではなく、私にやって来て留まっているもの。自分がオリジナルの何かを表現できるというの…

映画『RRR』(S.S.ラージャマウリ 監督作品)より。郷土愛があるかないかで、エネルギーの大きさも、教育の射程の広がりも、変わる。

数ある見せ場の中で、インド映画最強の武器ともいうべきハイライトのひとつがダンス・シーン。特に、テルグのスターの中でも踊りの巧さに定評のある2人の "ナートゥ" ダンス対決は、これが無ければこの2人を共演させた意味が無いといえるほど、まさに「待…

中江兆民 著『三酔人経綸問答』より。憤怒は道義心のあらわれ。軍事ではなく、教育にお金を!

豪傑の客、「それなら、もしどこか凶暴な国が、われわれが軍備を撤廃したのにつけこんで出兵し、襲撃してきたらどうします。」 洋学紳士、「私は、そんな凶暴な国は絶対ないと信じている。もし万一、そんな凶暴な国があったばあいは、私たちはそれぞれ自分で…

猪瀬直樹 著『日本システムの神話』より。教室現場は困っているんですよ!

僕は政治の世界にコミットしたつもりではない。太宰治や司馬遼太郎と共通の直観に突き動かされただけである(東京新聞8月6日付夕刊文化欄から)。(猪瀬直樹『日本システムの神話』角川oneテーマ21、2002) こんばんは。もしも太宰治や司馬遼太郎が政治家…

三浦しをん 著『きみはポラリス』より。若手と一緒に被災地をめぐりました。彼の地はポラリス。

八歳の冬の日からずっと、強く輝くものが私の胸のうちに宿っている。夜道を照らす、ほの白い一等星のように。それは冷たいほど遠くから、不思議な引力をまとっていつまでも私を守っている。(三浦しをん『きみはポラリス』新潮文庫、2011) こんばんは。先日…

早見和真 著『新! 店長がバカすぎて』より。ケアとエンパシーときどき利他。他者理解と自己理解。

つまりはそういうことなのだ。私が認識している谷原京子と、周囲が見ている谷原京子とは少し違う。ひょっとしたら周囲が見ている自分は、私が見せたいと願っている自分の姿でしかなくて、それがなんとか成功しているからギリギリのところで周囲と折り合いを…

早見和真 著『店長がバカすぎて』より。書店員にゆとりを。教員にもゆとりを。

「結局、バッグに退職届を忍ばせている時点で、私たちは辞められないんだ。年月を経るたびに重たいものを背負わされていくし、ままならないことも増えていく。どんどん上の人間がバカに見えてくるし、バタバタしている自分がアホらしくなっていく。でもね、…

加藤シゲアキ 著『できることならスティードで』より。偏見は、愚か者たちが使う理屈である。小学校 ≒ 旅。

僕の小学校時代は、授業で学んだ知識以上に、強制的に集団生活を送る日々から学んだことの方が多かった。友人との出会いや、初恋なども経験したし、俳句大会で佳作に入ったことも小さな成功体験の記憶としてある。一方で、体育が苦手だった僕は運動会にはあ…

酒井隆史 著『ブルシット・ジョブの謎』より。「BSJをどうするか」から「BSJをやめられない学校をどうするか」へ。

それでもいま教師になろうとする人の多くは、きっと教師という仕事を「それでもやりがいがあるはずだ」と選んでいるとおもいますし、実際に仕事をしながら、そのかたちはさまざまでしょうが、なんらかの意義を感じてもいるでしょう。でも、それがこのような…

坂口恭平 著『継続するコツ』より。人からの評価はいらない。通知表もいらない。

やりたいことを継続することは無茶苦茶難しくて、やりたくないことを継続することは惰性でできてしまう。 何だか言葉で書いていると、そんなわけはないとみんなから言われそうですが、どうやら、こんな感じじゃないですか? 僕も書いてて、ちょっとびっくり…

アニー・エルノー 著『嫉妬/事件』より。法律と社会秩序が個人を苦しめる。

この種の話は、苛立ち、もしくは反発を引き起こすかもしれない、あるいは、悪趣味だと非難されるかもしれない。何であれ、あることを経験したということが、それを書くという侵すべからざる権利を与えてくれるのである。真実に優劣の差はない。それに、この…

沢木耕太郎 著『天路の旅人』より。沢木耕太郎 meets 西川一三。『深夜特急』meets『秘境西域八年の潜行』。

西川が疲れからついついうつらうつらしかかると、「寝るな」と揺り起こされてしまう。それは蒙古に帰ってからの土産話になるよう、できるだけ多くのものを見させようとする親切心からなのだった。 バルタンのこの幼児のような振る舞いに、西川も心を動かされ…

三浦英之 著『五色の虹』より。かつて「日本人、中国人、朝鮮人、モンゴル人、ロシア人」が寝食を共にした大学があった。

満州国は日本政府が捏造した紛れもない傀儡国家でしたが、建国大学で学んだ学生たちは真剣にそこで五族協和の実現を目指そうとしていた。私が建国大学を振り返るときに、真っ先に思い出されるのはそういうところです。みんな若くて、本当に取っ組み合いなが…

アニー・エルノー 著、堀茂樹 訳『シンプルな情熱』より。アートは自由にする。恋愛も自由にする。

ものを書くという営みの時間は、恋の時間とは、まったく別物だ。 けれども、ペンを執った時点では、書くのは、まさにあの、見る映画の選択から口紅選びまで、何もかもが同じ方へ、ある人の方へ向かって流れていた時間の内にとどまるためだった。最初の数行か…

落合陽一 著『忘れる読書』より。忘れるような本すらない人はダメだよ、というアイロニー。

近代をおさらいするのにうってつけの一冊が、猪瀬さんが著された『ミカドの肖像』です。事実を不可視化するシステムの中で、視えないものをあえて視ようとする日本人のマインドが、圧倒的なボリューム感で描き出されています。猪瀬さんは、自身が「MIKADO」…